つめのはなし

爪が素敵な人に憧れる。

ぴかぴかの爪に煌びやかな飾りが沢山乗っている爪はジェルネイルというもので、ドラッグストアなどで買えるネイルポリッシュとはまた別物らしいと知ったのはいつだったか忘れてしまったが、その綺麗を爪に纏うことでネイルをオフした時に爪が削れたような状態になるのを見て、憧れと同時に恐れの気持ちが浮かび上がってしまった。

 

 

ネイルを施すために爪を長く伸ばしているのを見ると、中学生の時の週に一回の衛生検査では少しの白さも許してくれなかったのになあと居心地の悪い罪悪感みたいなものも湧き上がってくる。当時委員長だった私は人の爪を見る側で、自分が誰にも見られないのを良いことに白の部分は伸びっぱなしだったのだけれど。クラスメイトの爪を眺めながら、よくも皆こんなに深爪でいられるなあと感じたことはずっと覚えている。

 

小さい頃から深爪が苦手で、人生でやりたくない事を挙げるとしたらバンジージャンプとか肝試しよりも深爪をしたくないですと思い浮かぶくらい。衛生検査のたびに人の監査はするくせに自分は爪を伸ばすのかよ、とどこからか聞こえてくる声に、いやでも、私本当に、どうしても深爪が苦手なんです、と言い訳を考えていた。

 

 

爪を切るのもあまり得意ではない。わざわざ爪の長さなんて誰にも確認される事のない歳になった時、2週間以上爪を伸ばしっぱなしにしていたことがある。伸びきった爪を久しぶりに切り、生活を再開した時、世界が近づいた!と衝撃を受けた。私の周りには深爪が常な、爪をよく切る友人が多かったのだが、彼ら彼女らは私よりも近い距離で世界に存在していたのだと、自分の地に足のついていなさに答えを見つけたような気分になったりもして。ずぼらな性分なのも相まって、今でも爪は頻繁には切られないのだけれど、長くなった爪を一本一本爪切りを使って切るあの作業が、私には世界との距離を近づける儀式のようなものに思える。そうして少し浮いた所在のない自分を、戻していく。

 

 

まだジェルネイルはちょっと怖いから、簡単なネイルしかできないけど、この前新しく買ったネイルポリッシュを塗ろう。世界から離れるために爪を伸ばして、そしてまた戻ってこよう。